「Altered States」
はじめにお断りしておくと、このバンドは月刊OUTとは全く何の関係もありません。日本のアヴァンギャルド・インプロヴィゼーション・ミュージックシーンを代表するバンドで、たぶん多くの人は見たことも聞いたこともないでしょう。しかしフリージャズの文脈も含め、その世界の人ならば「アルタードステイツ」を知らない人はいないはず。海外での招待公演も数多く、日本を代表するインプロ・バンドです。
インプロヴィゼーションというのは即興、つまり決め事がないということで、だから音楽はその場限り、何がどう展開していくか当人たちもわからない。内橋和久のギターはフリーキーなのに一聴して内橋以外ありえない音、それをベースのナスノミツルのぶっといグルーヴが支え、芳垣安洋の変幻自在のドラムが走り抜ける。気を緩める隙のない緊張感をはらみながら流れていく音楽。即興というと、適当に演奏するんだったら誰でもできるんじゃないの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それは全く違います。圧倒的な技術の裏付けがあって初めて自由になれる、そういう領域のミュージシャンたちによる音楽なのです。
そのバンドが、日本のジャズを育てた老舗ジャズ・ライブハウス「新宿PIT INN」で毎年恒例の3daysの公演をやったのですが、その3日目がなんと「懐かしのアニソン・TVドラマ主題歌特集」!これはどう考えても見逃せない…。
しかもゲストミュージシャンもものすごいんですよ。ヴォーカルに天鼓・三橋美香子・田中悠美子という、これもアヴァンギャルドミュージックの世界では名の知れた人たち。特に田中は元々は義太夫三味線の人で大正琴も弾いたりしつつ、アヴァンギャルド界でも有名。バリトンサックスの吉田隆一はSF評論家でもあります。
もちろんこの日の趣旨からいって、曲があり歌があるからにはきちんとアレンジがされていて完全な即興ではないのだけれど、細かいことは何も決まっていないし、どう展開していっても即興で受け止め切れるミュージシャンたちだからこその自由さと緊張感がたまらないのです。
内橋は1959年生まれなので私(SII)よりは一回り上の世代、なので取り上げられる作品の多くは私は再放送で知っているクチ。ほぼ満員の会場の客層はもちろんフリージャズとかアヴァンギャルドミュージックのリスナーなのだけれど、やはり年輩の人が多く、その世代の共通言語として作品を知っているから曲ごとに激しく盛り上がる。
「前略おふくろ様」のテーマから始まったライブ、「太陽にほえろ」のテーマでは吉田のバリトンサックスがメインメロディを見事に再現。そこからだんだんとアニメ主題歌に移っていき、それにともなって破茶滅茶の度合いも上昇していく。
どこか日本的な闇の世界をまとう三橋のねっとりとした歌いまわしによる「デビルマン」に「エースをねらえ」。
女性ながらドスの効いた天鼓の野太い声で歌われる「巨人の星」に「宇宙戦艦ヤマト」。
田中は「アタックNo.1」「キューティーハニー」「魔法使いサリー」などなどをキテレツとしか言いようのない声で豪快に歌い、叫ぶ。
あまりアニメを見てこなかったという天鼓が「タイガーマスク」を歌ったあと、全く同じ節で「あしたのジョー」を歌い始め、内橋が笑いながらストップ。複雑な変拍子にアレンジされた「ウルトラマン」では悪戦苦闘する三橋に内橋の「ねらいどおりです、きっちり歌われたらどうしようと思った」という言葉が…。アンコールの「天才バカボン」では飛び入り参加の巻上公一が、持ち歩いている口琴でイントロに「ビヨーン」という音を入れて客席を笑わせる。そんなふうに笑いをはさみつつ、トータルでおよそ30曲をやりきりました。
そうやって耳に親しんだ曲を題材に、凄腕のミュージシャンたちが対峙しながらその場限りの音楽を生み出していく様に見入り、聴き入り、時には爆笑しながら、私がぼんやりと感じていたのは…
「ああ、これってOUTの空気だよなあ…」
ということでした。もちろんアニメという素材だからではあるけれど、こういう素材をネタに真剣に遊んでしまうこの空気、そして生まれてくるもののレベルの高さ。原曲の再現でもなければ自分なりの色を加えてカバーするという程度のことでもない。完全に解体して再構築している、その根底にはリーダー内橋が自分の子供の頃に好きだった元の曲・作品へのリスペクトがある。
終演後、そんなことを思いながら、冬の夜の新宿を歩いて帰ったのでした。


コメント